【子どもの権利】子どもにとって最もよいことを目指して(子どもの最善の利益)

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はじめに


今回ご紹介するのは,「子どもの最善の利益」と呼ばれる理念についてです。


この記事を読んでいる多くの皆さんは,誰かに喜んでもらいたい,楽しんでもらいたい,と思って行動を起こした経験があると思います。

では,相手にとって「一番よいこと」をしてみてと言われたら,一体どんなことが思いつくでしょうか。

この記事では,子どもにとって「一番よいこと」を目指すために,私たちはどんなことができるのか,一緒に考えてみましょう。

「子どもの最善の利益」とは?


「子どもの最善の利益」とは,子どもの権利条約の一般原則の一つで,

子どもに関する決定がなされる時は,その子供にとって最も良いことが第一に考えられなくてはならないとする理念のことです。[1]

子どもの福祉に関しては,

子どもがどの親と暮らし,非同居親や後見人などとどのように交流し,どのような支援を受けるべきか
などが度々問題になりますが,そのような事柄についての裁判も,この原則に準拠しています。[2] 

※例えば,祖父母の孫についての権利主張,養子として出された子に対する生物学的な親による権利主張などの文脈においては,
子どもの願いや感情,将来の子どもの身体や感情,教育において必要なことを考慮し,子どもの最善の利益が評価される、としています。
(しかし、様々な議論がある重大なトピックです。)


「最善」って一体なんだろう?

はじめに でもお話ししたように,相手にとって何が「最善」かということは,とても難しい問題です。

自分では「最善」だと思うことでも,相手にとってはそうではないこともあります。

では,「子どもの最善の利益」を採用している世界の条約や規則では,
この「最善」はどのように定められているのでしょうか。

以下は,障害者の権利の実現のための措置を定めた,障害者の権利条約からの引用です。

障害のある児童に関する全ての措置を取るに当たっては,児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。(障害者権利条約 第七条 2項 下線引用者) [2]


締約国は,1の権利[教育についての障害者の権利]の実現にあたり,次のことを確保する。(中略) 個人に必要とされる合理的配慮[手話や点字の学習など]が提供されること。(障害者権利条約 第24条 2 項 c号 []引用者 下線引用者) [2][3]


性的指向と性同一性についての規則であるジョグジャカルタ原則では,以下のように定められています。

万人は性的指向や性同一性により,医学的,心理学的治療や臨床検査を強要されない。(中略) 特に児童の体は児童の最善の利益の原則に従い,成熟に応じて十分なインフォームド・コンセントが得られるようになるまで医療介入から保護されるようにあらゆる法的,行政的手段を講じる。(ジョグジャカルタ原則 第18原則 (b)項 下線引用者)[4]

 

このように,それぞれの原則や条文の目的に合わせて,
子どもが必要な支援を受けたり,自分自身の意思で何かを選択したりする権利が奪われないことを,「最善の利益」として定めているのです。

「最善」を目指した具体的な取り組み

 ここまで,子どもを守るための重要な理念として,「子どもの最善の利益」を採用している,様々な原則や条約を見てきました。

では,私たちの身の回りには,「子どもの最善の利益」を守るためにどのような取り組みがあるのでしょうか。

「子どもの最善の利益」が実現されるために,私たち一人一人は一体どんなことができるのでしょうか?


 近年,この理念の活用が進んでいるのが,保育の分野です。

園内での子どもや保護者の表面的な振る舞いだけではなく,

子どもの年齢や性別,家庭環境などの特徴,子ども自身の意見や感情,身体的・心理的・教育的・社会的ニーズなどを踏まえた保育システムが提案されています。[5]


例えば,保護者の就労環境の変化によって,不適切な養育が見られるようになった子供に対しては,

実際に家庭で起きている問題を把握することはもちろん,そのような環境の変化に従って,

子どもがどのような感情表現をすることになったのか,保育士や親に対してどのようなことを求め

どのようなことは拒むようになったのかを子細に観察し,子ども自身のケアと保護者へのアドバイスに活かします。


 網野 (2016) では,子どもの最善の利益を考慮した保育にあたっては,子どもの権利保障を,「受動的権利保障」「能動的権利保障」に分けて考えることを提唱しています。[6]

受動的権利保障とは,義務を負うべきメジャー (大人) に対して,子どもを守られるべきマイナーな存在として捉え,生命が守られ,保護され,育てられ,教えられるという受け身の存在としての権利を保障するものです。

これは,言わずもがな重要な視点であり,子どもの権利保障の第一歩となる理念だといえます。

一方で,能動的権利保障とは,子どもを「子ども」である以前に「人間」として捉え,自由な思いや願い,主張や意見を表現し,行使する権利を保障するものです。

これは,メジャーな存在としての大人にはしばしば軽視されがちな権利であり,前述の受動的権利と比較すると,保障の実現が困難であることが考えられます。

つまり我々には,子どもの生命や健康が脅かされたり,差別や偏見に苦しめられたりすることがないようにするのはもちろん,子ども自身の要望や思いを無視したり軽視したりせず,
その意見に耳を傾ける姿勢が求められているのです。

(引用: 渡邊 建道 子育て支援における「子どもの最善の利益」の構築について 
 —イギリス児童法の「子の福祉」判断基準の活用に関する一考察—[5]
網野武博  子どもの最善の利益を考慮する保育[6] )

もっと知りたい人へ


手軽に知りたい方へ

各自治体のホームページから「子どもの最善の利益」を守るための取り組みを見ることができます

札幌市子ども未来局子ども育成部子どもの権利推進課
札幌市子どもの最善の利益を実現するための権利条例

世田谷区 子ども・若者部保育課 なるほど!せたがやのほいく 〜遊びと学びがいっぱい〜 世田谷区保育の質ガイドライン


より専門的に知りたい方へ

『英国の社会的養護の歴史:子どもの最善の利益を保障する理念・施策の現代化のために (明石書店) 』(津崎哲雄) 

『子どもの最善の利益から考える保育実践例 (一藝社) 』(賽川雅子)
 

引用文献

[1] 子どもの権利条約 unicef(最終閲覧日:2021/07/03)
[2] 子どもの最善の利益 Wikipedia(最終閲覧日:2021/07/03)
[3] 障害者の権利に関する条約 外務省(最終閲覧日:2021/07/03)
[4] ジョグジャカルタ原則 Wikipedia(最終閲覧日:2021/07/03)
[5] 子育て支援における「子どもの最善の利益」の構築について —イギリス児童法の「子の福祉」判断基準の活用に関する一考察— 渡邊建道(最終閲覧日:2021/07/03)
[6] 網野武博 (2016). 子どもの最善の利益を考慮する保育 保育学研究, 54(3), 4-8.

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