【子どもの権利】日々の幸福のために「守られる権利」

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はじめに

子どもの権利条約が定める4つの権利シリーズ,今回は「守られる権利」についてです。

本来,子どもも大人と同様に,一人の人間として等しく尊重されなければなりません。
しかし,大人が,体格の大きさや自身の社会的立場を利用して,子どもを社会におけるあらゆるリスクに晒す事例が後を断ちません。

 子どもたちには,このような不当な扱いから「守られる権利」が与えられています。

子どもたちの幸せな毎日を守るために,私たちはどんなことに注意を向けるべきなのかな?

子どもの権利条約と「守られる権利」

では,子どもの権利条約では,どのようにして子どもたちの「守られる権利」を定めているのでしょう。

以下の条文は,「守られる権利」の保障内容について示したものです。

締約国は、児童が父母、法定保護者又は児童を監護する他の者による監護を受けている間において、あらゆる形態の身体的若しくは精神的な暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取(性的虐待を含む。)からその児童を保護するためすべての適当な立法上、行政上、社会上及び教育上の措置をとる
(子どもの権利条約 第1部 第19条1項) (1)

締約国は、児童が経済的な搾取から保護され及び危険となり若しくは児童の教育の妨げとなり又は児童の健康若しくは身体的、精神的、道徳的若しくは社会的な発達に有害となるおそれのある労働への従事から保護される権利を認める
(子どもの権利条約 第1部 第32条1項) (1)

締約国は、いずれかの面において児童の福祉を害する他のすべての形態の搾取から児童を保護する
(子どもの権利条約 第1部 第36条) (1)

まず,第19条では,保護者の養育下において,子どもが心身の虐待やネグレクトなど,あらゆる不当な扱いを受けなくて済むよう,国から保護される権利があることを述べています。

32条では,児童の教育や健康,発達を阻害するような労働から,36条では,あらゆる形態の搾取から保護される権利を定めています。

守られる権利の危機

このように,子どもには,その健やかな成長を脅かすような不当な扱いから守られる権利が認められているにも関わらず,今この瞬間にも,暴力やネグレクト,経済的あるいは性的搾取,人身取引,児童労働,子ども兵士など,子どもの「守られる権利」を脅かす事例が発生しています。

 今回は,経済的・性的搾取と児童労働に関して,その実態と,解決するべき問題についてご紹介します。

 まず,「搾取」とはいったいどういった意味なのでしょうか。

元々は,動物の乳や草木,果実の汁を搾り取るという意味ですが,現在はそこから転じて,本来他者に与えられている権利や利益を,本人の同意なく不当に侵害・取得したり,自らの優位な立場を利用して,他人に特定の行為を命令・強制することで利益を得たりすることを意味します。(2) 


 子どもに対する搾取は,多くの場合,子どもよりも身体的あるいは社会的に優位な立場にある大人が,子どもが持っている権利を不当に侵害したり,大人からの命令を断れないような状況を利用して,子どもに対して危険な,あるいは違法な行為を強要したりすることとされます。


 例えば,子どもに対する経済的搾取としては,両親をはじめとする保護者が,特に身体的・経済的理由がないにも関わらず,子どもの医療や教育など,健やかな発達のために必要な最低限の金銭の支払いを放棄する子どもに対して支給された奨学金やアルバイト代を,本来の目的以外の用途で使い込む,などの事例が挙げられます。(3) 


 子どもの貧困対策として,政府による教育支援や経済支援,生活支援や就労支援のほか,地域による見守りなどは行われていますが(4),子どもに対する経済的搾取に特化した支援策は広く行われていないのが現状です。


 そのため,子どもによる訴えや,教育関係費の滞納,子どもの病気や怪我の悪化によって,初めて経済的搾取が表面化するケースが多く,事態を未然に防ぐための仕組みづくりが必要です。(3)

 
 子どもに対する性的搾取としては,身近な大人による性的虐待や,児童売春・児童ポルノなどの商業的性的搾取が挙げられます。(5)

これらの被害にあった子どもたちは,世界中で数百万人にものぼると見られ,トラウマや就学機会の損失,暴力や性感染症,望まない妊娠などに苦しんでいます。(6)

性的搾取に関係する犯罪行為は,前述した大人の優位性によって子どもを脅し,断れない状況下において秘密裏に行われることが多いうえ,被害を受けた子どもに羞恥心を抱かせるものであることから,事態が表面化するまでに時間がかかったり,最悪の場合被害が報告されないままになったりする可能性があります。(6)

性的搾取にあたる加害行為そのものの取り締まりはもちろんのこと,被害者あるいは通報者の長期的な安全の確保についても考慮する必要があるんだ。


 次に,児童労働についてです。児童労働とは,「子どもが働くこと」全てを指す言葉ではありません。(7) (8) 

学校に通ったり,遊んだり休んだりする時間を確保したうえで,おうちの手伝いをしたり,15歳をすぎてアルバイトをしたりすることは,「子どもの仕事」と呼ばれ,児童労働とは区別されています。(7) 

「児童労働」とは,子どもの成長や教育を妨げる,違法で有害な労働のことを指し,その最悪の形態は,人身売買や徴兵,性的搾取や薬物取引などであり,死亡や重大な人権侵害を招くリスクがあります。(8)


 児童労働の背景には,経済的困窮や人手不足のほか,未熟な法整備や社会・文化的慣習に起因する,児童労働についての問題意識の低さがあると考えられています。

様々な要因に対応する包括的なアプローチが求められているんだね。(8)

「守られる権利」を求めて

前項では,子どもたちの「守られる権利」が脅かされる事例の一部についてご紹介しました。

では,これらの問題について,国際法上の枠組みや,様々な団体の活動を通して,どのような対策がとられているのでしょうか。

また,私たち一人一人には何ができるのでしょうか。


まずは,国際文書上の取り決めについてご紹介します。子どもの権利条約においては,子どもたちの「守られる権利」のより実践的な保護のために,2つの選択議定書が追加されました。(9)


 選択議定書とは,既存の条約の内容を補完するために,条約とは独立して作成される法的国際文書のことです。(10) 

 そのうちの1つ,「武力紛争における子どもの関与に関する選択議定書」では,武力紛争において,子どもをその攻撃の対象とすることへの非難に加え,「子ども兵士」と呼ばれる,18歳以下の子どもの強制的な徴集による敵対行為への参加の禁止を提唱し,これらの被害にあった子供たちの回復支援の必要性について述べています。(11)


 もう1つの選択議定書,「子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーに関する選択議定書」では,前項で示した,子どもに対するあらゆる性的搾取を禁止したうえで,これらの背景にある貧困や不十分な開発などの根本的な原因に対処する必要性や,インターネット技術の発展に伴い入手が容易になった児童ポルノを,全世界において犯罪とみなす重要性について述べています。(12)


 しかし,上記のような国際法上の規定があるにも関わらず,子どもの「守られる権利」が侵害される事例は後をたちません。

そこで,様々な機関や団体が,「守られる権利」の厳守を求めて活動を続けています。今回はそのような活動の一部をご紹介します。


 日本ユニセフ協会では,子どもの性的搾取について,法律・政策への働きかけ,旅行・観光と子どもの保護,オンライン上の子供の保護の3つを挙げて活動を行なっています。(13) 


 法律・政策への働きかけは,2014年に改正された「児童売春・児童ポルノ禁止法」において,児童ポルノの製造・提供のみでなく,入手や保管等の「単純所持」も禁止されるなど,児童ポルノのさらなる拡散やさらなる被害の防止へと繋がっています。 


 旅行・観光と子どもの保護については,海外観光地における子ども買春の根絶を目的とした,旅行・観光業界のための倫理規範である「コードプロジェクト」を国内においても発足させ,多くの企業が参画しています。


 オンライン上の子どもの保護としては,IT業界及び関係団体と協力した,メディアリテラシー向上を目指す教育活動のほか,インターネット上の児童ポルノ画像へのアクセスを遮断する,「ブロッキング」の導入を推進しています。


 Save the Children JAPANは,児童労働の背景として,

  1. 安価な商品を求めるグローバル市場とその物流システムの細分化,
  2. 貧困や差別といった経済的・社会的格差,
  3. 子どもを危険で有害な労働から守るための社会の理解と制度の欠如


 という3つの問題を挙げています。(8)

そこで,「子どもの最善の利益」の観点から,生計向上などの経済支援に加え,児童労働による子どもへの悪影響の説明によって家庭からの理解を得るなど,様々な要因へのアプローチを行なっています。(8) 

※子どもの最善の利益の記事はこちら

また,子どもにとって安全な組織づくりを目指す観点から,通報者や通報内容の管理についてのワークショップを開くなど,子どもがSOSを出しやすい環境を目指して活動を行なっています。
 

では,子どもたちの「守られる権利」の保障のために,私たち一人一人にはどのようなことができるのでしょうか。

まずは,子どもが,心身の虐待やネグレクト,あらゆる搾取などの不当な扱いの被害者になりやすく,これらの被害が,子どもたちの健康や発達に多大な悪影響を及ぼすのだということを認識することです。
 

そして,「守られる権利」が侵害されるような事態を見聞きした場合に,被害者自身やその家族,あるいは周囲の人々が,その被害について通報・相談し,適切な保護を受けられるような仕組みを利用することです。


例えば,各都道府県警察や法務省の人権擁護機関の窓口では,「守られる権利」を奪われるあらゆる被害について,専門家によるアドバイスや対処方法の提案を受けることができます。(14)

しかし,実際にこのような事態を見聞きした時に,どこに通報・相談するのが最適なのかわからなくなってしまったり,様々なリスクを考慮して通報を躊躇ってしまったりするケースもあるかと思います。


そこで,厚生労働省の「支援情報検索サイト」では,相談者の居住地域や相談方法に合わせた支援情報を検索することができます。(15)

対面の相談窓口はもちろん,電話やメール,SNSを通じた相談や,相談したい悩みの種類に応じた支援情報の検索もできるんだよ。


残念なことに,被害者や周囲の人々からの通報があったにも関わらず,その後に適切な支援が受けられず,事態が解決しないまま,最悪の結果を迎えてしまう事例も散見されます。

被害者はもちろん,第三者による支援・保護の要請が確実に事態の解決へとつながるようにすること,そして被害者に加えて,通報者や相談者も必要に応じて保護を受けられるようにすることなど,通報・相談システムにはまだまだ改善の余地があると考えられます。

今この瞬間にも起きている被害を食い止めるために,子どもたち自身や,彼らを見守る大人たちからのSOSを見逃さない体制づくりが求められます。


編集後記

 ここまで読んでくださってありがとうございます。子どもの権利条約が定める4つの権利についての記事制作を担当しています,ぱんだです。気づけば10月,読書の秋ということで,最近は気になっていた新刊や,高校生の時にハマっていた長編シリーズを読み返しています。すっかり読み尽くしたと思っていた作品でも,月日が経って読み返すと,また新たな発見があったりするものです。今まで読んでこなかったジャンルや作家さんの作品にも自然と手が伸びるようになって,自分の些細な成長も感じられます。
 さて今回は,「守られる権利」についてご紹介しました。今この瞬間も不当な扱いに苦しむ子どもたちがいること,その背景には,社会・経済・文化的な様々な要因が存在すること,彼らを助けたいと思いながらも,様々な潜在的なリスクを考慮しあと一歩が踏み出せないケースがあること,被害者や通報・相談者を確実に保護したうえで,事態を解決するためのシステムづくりが不完全であることなど,様々な問題が浮かび上がってきました。現状のシステムありきのトップダウン的な施策ばかりではなく,個々の事例から実態を把握し,より効果的な枠組みづくりを目指す,ボトムアップ的な取り組みが求められているのではないでしょうか。

もっと知りたい方へ

手軽に知りたい方へ

外務省のホームページから,ご紹介した選択議定書の全文を読むことができます

外務省 武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書

外務省 児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書

Save the Childrenは,COVID-19が,児童婚をはじめとする少女の性的搾取に与える影響について提言しています

より専門的に知りたい方へ

『安心してくらしたい— 守られる権利 (鈴木出版) 』(ジーン・ハリソン 今西大)

友だちを助けるための国際人権法入門 (影書房)』(申惠丰)

引用文献

[1] 子どもと先生の広場 unicef (最終閲覧日:2021/10/1)
[2] 搾取Wikipedia  (最終閲覧日:2021/10/1)
[3]児童虐待・DVを考える<2>子どもの奨学金やバイト代 搾取 少ない防止策 親権停止も 西日本新聞
(最終閲覧日:2021/10/1)
[4] 子どもの貧困を解決するため,政府が行なっている政策は?gooddo (最終閲覧日:2021/10/1)
[5]児童の商業的性的搾取に反対する世界会議「宣言」外務省 (最終閲覧日:2021/10/1)
[6]子どもの商業的性的搾取 unicef (最終閲覧日:2021/10/1)
[7] 児童労働とは ACE  (最終閲覧日:2021/10/1)
[8]守られることは子どもの権利 Save the Children JAPAN(最終閲覧日:2021/10/1)
[9]「子どもの権利条約」25周年 記念連載⑤〜守られる権利〜 World Vision (最終閲覧日:2021/10/1)
[10]子どもの権利条約選択議定書 unicef (最終閲覧日:2021/10/1)
[11]武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書 外務省(最終閲覧日:2021/10/1)
[12] 児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書 外務省 (最終閲覧日:2021/10/1)
[13] 子どもの性的搾取 unicef(最終閲覧日:2021/10/1)
[14] SNS利用による性被害等から子供を守るには 政府広報オンライン (最終閲覧日:2021/10/1)
[15]支援情報検索サイト 厚生労働省 (最終閲覧日:2021/10/1)

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