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はじめに
今回紹介するのは,子どもの権利条約が定める4つの権利のうちのひとつ,「生きる権利」です。
「生きる」という言葉だけ聞くと,なんだか当たり前のことのように感じられるかもしれません。
しかし,安心して暮らせる住居がなかったり,十分な食料が手に入らなかったりしたとして,果たして本当に「生きる」ことができるでしょうか?
「生きる権利」は,私たちが,健康で安全に暮らすために必要な権利を保障しているのです。
子どもの権利条約と「生きる権利」
子どもの権利条約では,以下のように,子どもの「生きる権利」を定めています。
締約国は,すべての児童が生命に対する固有の権利を有することを認める。
(子どもの権利条約 第1部 第6条1項) (1)
ここでの「生命に対する固有の権利」とは,安全な住居や十分な食料,病気や怪我をした際の医療へのアクセスなど,子どもの命が守られるために必要な全ての権利を指しています。(2)
具体的な条文としては,以下が挙げられます。
締約国は、到達可能な最高水準の健康を享受すること並びに病気の治療及び健康の回復のための便宜を与えられることについての児童の権利を認める。締約国は、いかなる児童もこのような保健サービスを利用する権利が奪われないことを確保するために努力する。
(子どもの権利条約 第1部 第24条1項) (1)
締約国は、児童の身体的、精神的、道徳的及び社会的な発達のための相当な生活水準についてのすべての児童の権利を認める。
(子どもの権利条約 第1部 第27条1項) (1)
締約国は、武力紛争において自国に適用される国際人道法の規定で児童に関係を有するものを尊重し及びこれらの規定の尊重を確保することを約束する。
(子どもの権利条約 第1部 第38条1項) (1)
様々な法律・条約と「生きる権利」
実は「生きる権利」は,決して子どもの権利条約だけで定められているわけではありません。
世界中の法律や条約が,全ての人々に与えられる権利として,「生きる権利」を定めています。
例えば,日本国憲法では,社会権の一つである「生存権」として,「生きる権利」を定めています。
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
(日本国憲法 第25条第1項) (3)
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
(日本国憲法 第25条第2項) (3)
これは,国民全員が,心身の健康や安全が守られた暮らしを受ける権利があることを示したうえで,
国はそれを実現するために必要な措置を講じる必要があると述べています。
また,以下に示す国際条約でも,全ての人々が達成するべき共通の基準として「生きる権利」の保障が提唱されています。
この規約の締約国は、自己及びその家族のための相当な食糧、衣類及び住居を内容とする相当な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善についてのすべての者の権利を認める。締約国は、この権利の実現を確保するために適当な措置をとり、このためには、自由な合意に基づく国際協力が極めて重要であることを認める。
(国際人権規約 (A規約) 第11条第1項) (4)
社会からの排斥及び貧困と闘うために、連合は、共同体法ならびに国内の法令および慣行が定める規則に従い、十分な資力を持たないすべての人に品性ある生活を確保するように、社会扶助および住宅支援に対する権利を認め、尊重する。
(欧州連合基本権憲章 第34条 第3項) (4)
「生きる権利」を守るための具体的な取り組み
ここまで,子どもはもちろん,世界中の全員に対して保障されるべき権利として,「生きる権利」が定められていることをご紹介してきました。
しかし,条約や法律に記載されたからといって,必ずしもその権利が適切に守られるとは限りません。
一度定められた権利が,侵害されることなく守られるためには,どのような過程が必要なのでしょうか。
この章では,まず,「生きる権利」に限らず,「子どもの権利」全体を守るための国際的な仕組みを概観したうえで,日本国内において「生きる権利」を守るための具体的な取り組みを紹介したいと思います。
まず,子どもの権利を守るための仕組みは,
- 締約国による報告
- 一般的意見
- 権利を侵害された子どもによる通報
の3つに大きく分けられます。(5) 順番に見ていきましょう。
1. は,①子どもの権利委員会に対し,締約国政府の政府報告書,あるいは,国内NGO・NPO等のシャドーレポートによる,条約の遵守状況についての報告 ②子どもの権利委員会の予備審査・事前質問と政府・NGO等による回答 ③子どもの権利委員会による本審議,その結果の「総括所見」としての勧告という3つの段階に分かれます。
2. は,条約の遵守促進や,締約国による報告義務の履行を助けるため,子どもの権利委員会から提出される文章のうちの1つです。これは,ある特定の条項やテーマに関し,委員会がその見解を示したもので,締約国の政府や司法機関等が重視するべき人権基準となります。例えば,一般的意見1として「教育の目的」,一般的意見7として「乳幼児期における子どもの権利の実施」など,様々なテーマについての解釈が示されています。(6)
3. は,権利を実際に侵害された子ども自身あるいはその代理人による,条約の委員会に対する通報のことです。しかし,この制度を実施するためには,締約国が,条約とは別に個人通報制度に関する法的文書に批准する必要があります。例えば自由権規約についてであれば,韓国やオーストラリア,ニュージーランドなど,アジア太平洋地域をはじめとする116カ国 (2019年9月当時) で,個人通報制度の導入が進んでいます。しかし,日本はいまだにこの法的文書に批准しておらず,国際機関からも批准を促す勧告が出ています。 (7)
それでは,日本国内では,どのような制度によって「生きる権利」を守ろうとしているのでしょうか。以下は,「生きる権利」が具体化された制度です。(3)
・公的扶助 生活保護 など
・社会保険 国民健康保険 厚生年金 失業保険 など
・公的年金制度 国民年金 厚生年金 など
・社会福祉 児童福祉 老人福祉 障害者福祉
・公衆衛生 母子保健 伝染病予防 生活習慣病対策 精神衛生 など (8)
・環境保全 公害の予防 自然環境の保全 など (9)
例えば,公的扶助とは,お金に困っている人々を対象に,健康で安全な暮らしを保障するための金銭給付を行う仕組みです。(10)
社会福祉制度は,子どもたちや心身に障害を持つ人々,お年寄りなど,社会生活上のハンディキャップを持つ人々に対して,公的な支援を行うための制度です。(11)
子どもを含め,私たちの誰もが健康で安全に暮らせるように,社会には様々な仕組みが設けられているのです。
おわりに
記事の冒頭にも記したとおり,日々の些細な問題に追われながら暮らす多くの人々にとっては,「生きる」ということはある種当然のことかもしれません。
しかし,私たちが当たり前のように「生きる」ことができるのだとすれば,それは,「生きる権利」を定めた様々な法制度と,その実現のための社会システムに守られているからなのです。
そして,誰もがある日突然,健康で安全に「生きる」ことができなくなる可能性があります。そんな時に我々を守ってくれるのも,これらの法制度と社会システムでなくてはなりません。
私たち一人一人にできることは,まず「生きる権利」にまつわる決まりについて「知る」ことです。
そして,もし日々「生きる」ことに困っている人がいたら,自分が知っていることを「教える」ことです。
特に子どもは,これらを知らないまま,気づかぬうちに「生きる権利」を奪われてしまうリスクが高いと考えられます。
編集後記
はじめまして。今回記事制作を担当しました、ぱんだです。現在大学4年生、卒論の準備に追われています。Rettborneで扱われる内容は、自分の専門に少し近いところがあるので、大学での学びが少しでも生きればいいなと思っています。
今回は、「生きる権利」についてご紹介しました。年齢的にはすっかり成人済みですが、私たちが「生きる」ための社会の仕組みについて、まだまだ知らないことだらけだなと痛感しました。記事制作を通じて、私自身も様々なことを勉強していきたいです。
もっと知りたい方へ
手軽に知りたい方へ
AMNESTY INTERNATIONALのホームページから,子どもの権利を守る仕組みと,児童労働による子どもの「生きる権利」の侵害について知ることができます
日本弁護士連合会のホームページから,人権侵害に伴う個人通報制度についてより詳しく見ることができます
日本弁護士連合会 「個人通報制度」の実現を!~国際基準による人権保障のために~
より専門的に知りたい方へ
日本弁護士連合会のホームページから,子どもの権利の様々な項目に対する子どもの権利委員会の見解を見ることができます
『もう,死なせない! — 子どもの生きる権利 (フレーベル館) 』(桃井和馬)
引用文献
[1] 子どもと先生の広場 unicef(最終閲覧日:2021/09/17)[2] 子どもの権利条約 unicef(最終閲覧日:2021/09/17)
[3] 生存権 Wikipedia(最終閲覧日:2021/09/17)
[4] 国際条約等における生存権の規定について 厚生労働省(最終閲覧日:2021/09/17)
[5] 子どもの権利 AMNESTY INTERNATIONAL(最終閲覧日:2021/09/17)
[6]子どもの権利条約 条約機関の一般的意見 日本弁護士連合会 (最終閲覧日:2021/09/17)
[7]「個人通報制度」の実現を!~国際基準による人権保障のために~ 日本弁護士連合会(最終閲覧日:2021/09/17)
[8] 公衆衛生 SHARE(最終閲覧日:2021/09/17)
[9] 環境基本法 Wikipedia(最終閲覧日:2021/09/17)
[10] ユースアドバイザー養成プログラム 第4章 さまざまな社会資源 —関係分野の制度,期間等の概要,関係機関の連携等— 内閣府 (最終閲覧日:2021/09/17)
[11] 社会福祉 知るぽると 金融広報中央委員会(最終閲覧日:2021/09/17)