はじめに
前回は、「黒染めの強要・パーマの禁止」を例に挙げて、ブラック校則が抱えるリスクについて考えてきました。
今回は、その他のブラック校則についても紹介しながら、ブラック校則が理不尽とされる理由について、さらに考えてみましょう。

ブラック校則が抱えるリスク
前回の記事で紹介した、ブラック校則のリスクは、以下の3つでした。
- 身体的差別の助長
- 家庭の経済的負担の増加
- 子どもの自由の侵害
今回は、新たに次の3つについて考えましょう。
- 体罰やハラスメント
- 心身の健康被害
- 性規範の押しつけ
体罰やハラスメント
体罰とは?

まず、「体罰」の定義を確認しよう!
文部科学省は、
- 身体に害を与える罰(殴る、蹴るなど)
- 罰を受ける人に肉体的苦痛を与えるような罰(正座・直立など特定の姿勢を長時間にわたって保持させる など)
が「体罰」に当たるとしています。(1)
それ以外にも、
- 軽い暴力行為(しっぺ、デコピン)
- 暴言(脅す、人格を否定する)
- 行き過ぎた指導(部活動や運動活動における、児童・生徒に合わない過剰な指導)
は、不適切な指導とされています。
体罰について詳しく知りたい方は、以下の記事もおススメです!
ブラック校則に基づく指導では、体罰や、不適切な指導が多くみられると指摘されてきました。
荻上・岡田(2018)が示した調査では、中学・高校時に経験した理不尽な指導として、次のような事例が挙げられています。(2)
- 連帯責任で叱られた
- 軽く/強く叩かれた
- 人前で強く叱責された
- 廊下に立たされた
- 授業中に正座をさせられた
- 体調不良や怪我でも、授業/部活への参加を強要された
ハラスメントとは?

次にハラスメントがどんな行為を指すのか確認しよう。
一般的には、
- 人に対する「嫌がらせ」や「いじめ」などの迷惑行為
- 相手に不快感や不利益を与え、尊厳を傷つけること
がハラスメントに当たるとされています。(3)
ハラスメントは、その対象や内容によって様々な種類がありますが、学校の現場で問題となることが多いのが、セクシュアルハラスメント、通称「セクハラ」です。
セクハラとは、
性的な言動
(=性的な関心や欲求、社会的・文化的につくられた性差に基づく発言や行為)
によって、相手に不快な思いをさせること
と定義されています。学校では、教師による次のような行為が問題となっています。(4)
- 必要もないのに、容姿や体の成長に関する話をする
- 性に関することを話題にしたり、質問したりする※
- 相手の体に不必要に触れる
- 男女の性別によって、行動や役割分担を一方的に決めつける
- 着替えの場へ無断で入る
※教育上必要な性教育以外の場面での行為を想定しています
ブラック校則のうち、セクハラの発生につながりやすいものとして、
- スカート・ズボンの丈の指定
- 下着の色の指定
が挙げられます。
これらの校則に違反していないか調べるために、
- 先生に身体をジロジロ見られた
- 許可なく身体に触られた
などと報告した事例もあります。(2)

こんな体罰やハラスメント、不適切な指導は、どんな理由があっても、改められなくてはいけないよね。
もちろん、そうだよね。でも、ブラック校則を守らせるため、という理由で、これらの行為が正当化されるケースもあるんだ。


心身の健康被害
ブラック校則にともなう健康被害も、決して見逃すことのできないリスクの一つです。
身体的な健康被害につながるようなブラック校則として、以下のようなものが報告されてきました。(2)
- 冬でも、ストッキングやタイツ、マフラーなどの防寒対策をしてはいけない
- 体育や部活時に水を飲んではいけない
- 日焼け止めを持ってきてはいけない、使用する場合は家で塗ってくる
- 衣替えの時期が決まっており、気温が暑く/寒くなっても、指定の制服を着なくてはならない
これらのブラック校則に共通しているのは、近年の気候や、科学的知見の変化に対応していないということです。
気象庁の調査によると、1990年代以降、高温となる年が頻繁にあらわれており、1日の最高気温が35℃を超える猛暑日が増えています。(5)
一方で、北極海の海氷が溶けることで、冬の寒冷化が進んでいるという報告もあります。(6)
地表に到達する紫外線についても、1990年以降緩やかに増加しています。(7)
これらの事実を踏まえると、過去の気候を参考にした服装や飲水、紫外線対策の規定が、現在の学校生活に相応しくないことは、十分に考えられます。
近年、部活動や課外活動中の熱中症の発生や、それに伴う死亡事故も報告されています。(8)

校則による一律の規定ではなく、当日の気候や、子どもたちの体調に合わせた、柔軟な管理体制が求められているんじゃないかな。
そうだね!そして、健康被害は、身体だけじゃなくて、心にまで及ぶことがあるよ。

NHKによると、年間5000人以上の小学生・中学生・高校生が、校則など、「学校の決まりなどをめぐる問題」が原因で不登校になっているんだ。(9)


本来、生徒たちを守り、教育上の目標を達成するためにあったはずの校則が、生徒たちを苦しめ、教育を受ける機会を奪っている場合もあるんだね。

性規範の押しつけ
最後に、ブラック校則が抱える問題として、「性規範の押しつけ」について考えてみましょう。
性規範(性役割/ジェンダーロール)とは、
男性と女性がどのようにあるべきで、どう行動し、どのような外見をするべきか
という考えのことです。(10)
この背景には、性を男女で二分できるとする性別二元性(男女二元論)の問題があります。(11)
しかし実際には、性のあり方は、「身体の性」「性的指向」「性自認」「性表現」などの要素に分けて考えることができます。(12)
- 身体の性:様々な身体の特徴によって判断される性
- 性的指向:どのような性別の人を好きになるか
- 性自認:自分の性をどのように認識するか
- 性表現:服装や仕草、言葉づかいをどう表現するか
さらにこれらの要素も、それぞれについて男性か女性か、と二分されるわけではなく、個人によって、様々な感じられ方、表現の仕方があります。
このように、性のあり方は、多様なグラデーションで示すことができます。(12)

では、性のあり方と校則に関しては、どんな問題があるんだろう。
まず、日本の学校の多くが、男女別で制服を作成し、男子にはズボンを、女子にはスカートを履くことを指定しています。
また、中には校則で男女別に髪型が指定されているケースもあります。(2)
女子には、ポニーテールやお団子など、特定の髪型を禁止するほか、前髪は眉より上、男子は髪を耳より短くする、など長さの規定がある場合もあります。
これらの校則を、当たり前のルールのように感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、「一般社会の常識からかけ離れた,理不尽な校則」という定義を踏まえると、これらもブラック校則であるということができます。
すでに述べたように、自身の性の認識や、その表現の仕方は、「男性か女性か」と二分できるものではありません。
LGBTQをはじめとする、多様な性のあり方についての認識が広まる中で、国内でも、性別に関係なく選択できる「ジェンダーレス制服」の導入が進んでいます。(13)
ただし、新たな制服の導入が進んでも、まだまだ解決されていない問題があるのではないか、という指摘もあります。
ここで、制服にまつわる様々な声を見てみましょう。

女子がスラックスを選ぶことはできても、男子がスカートを選ぶことはできない場合が多いよね。「ジェンダーレス」と言いつつ、特定の選択しか想定していないのはどうなんだろう…
性的多様性についての教育が十分に進んでいないのに、いきなりジェンダーレス制服のみを導入しても、周りの人の目を気にして、思ったように選択できない場合もあるよね。「女子なのにスラックスを履いてる」「男子なのにスカートを履いてる」じゃなくて、自由な性表現についてもっと理解を深める必要があるんじゃない?


同じ人でも、スカートが履きたい日もあれば、スラックスが履きたい日もあるよね。でも今は、身体の性から想定されるものと異なる制服を選択するときには、届け出を出したりしなくちゃいけない。もっと自然な選択の一つとして受け入れられればいいのに。
特に、ジェンダーレス制服の選択が、強制的なカミングアウト(これまで公にしていなかった、自身のセクシュアリティ等を表明すること)につながる場合があることは、問題視されています。(14)
女性のパンツスタイルは、既に社会の中で定着しているのに対し、男性がスカートを着用することは、あまり定着しておらず、男性によるスカートの選択が、カミングアウトに直結して捉えられる可能性が高いからです。
カミングアウトをしたとしても、不自由のない生活を送れることが理想ですが、現実の社会ではまだまだ実現していません。
自身の社会生活のため、望まない性表現を強いられているケースもあるのです。
前回の記事でも述べたとおり、子どもには、自由に自分を表現する権利があります(子どもの権利条約 第13条)。
子どもたち自身が望む表現ができるように、そして彼らの心身の健康を保つために、今一度社会に広がる性規範について、考え直す必要があるのではないでしょうか。
編集後記
最後まで読んでくださってありがとうございます。ぱんだです。
4月から晴れて大学院生となりました。忙しい日々が続いていますが、RettBorneメンバーの助けもあり、なんとか校則シリーズ②を書き上げることができました。これからも少しずつでも発信を続けていければと思っています。
今回も、ブラック校則とそのリスクについてご紹介しました。記事内でも述べたとおり、ブラック校則に伴うリスクは、様々な場面で浮き彫りになっています。公になっていないものも含めれば、もっと多くの問題が生じている可能性もあります。にもかかわらず、なかなか変わらない現状に、もどかしさを感じました。生徒や保護者の声に耳を傾けられるような体制づくりを、早急に進める必要があるのではないでしょうか。
参考文献
[1] 体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について(通知)文部科学省(最終閲覧日:2022/05/04) [2] 荻上チキ・内田良 (編) ブラック校則 —理不尽な苦しみの現実—東洋館出版社 [3] 職場におけるハラスメントについて ドクタートラスト(最終閲覧日:2022/05/04) [4] スクール・セクシュアル・ハラスメント防止のためのガイドライン 熊本県教育委員会(最終閲覧日:2022/05/04) [5] 日本の気温の変化 気象庁 (最終閲覧日:2022/05/04) [6] 「地球温暖化のせいで寒冷化…」なぜそんなことが起こるのか 日本経済新聞(最終閲覧日:2022/05/04) [7] 紫外線の経年変化 気象庁(最終閲覧日:2022/05/04) [8] 熱中症予防情報サイト 学校現場における熱中症対策の推進に関する検討会 環境省(最終閲覧日:2022/05/04) [9] 「学校つらい…私がおかしいの?」~不登校の原因は校則でした NHK (最終閲覧日:2022/05/05) [10] ジェンダーとは? UN WOMEN 日本事務所 (最終閲覧日:2022/05/05) [11] 性別二元性をどうのり越えるか-性を個人差として扱う可能性-The Annual Report of Educational Psychology in Japan, 54, 202-211.(最終閲覧日:2022/06/04)
[12] About LGBT TRP 2022(最終閲覧日:2022/06/04) [13] ジェンダーレス制服 TOMBOW (最終閲覧日:2022/05/05) [14] LGBTQの生徒への服装の配慮 KANKO (最終閲覧日:2022/06/04)